ベトナム研究の第一人者で日越大学では学部運営・実施(文系分野)を担当されている桃木至朗先生から、先生の研究分野であるベトナム研究に興味を持たれたきっかけ、また日越大学での活動についてお話を伺いました。
–先生の研究分野について、また研究を志したきっかけについて教えてください。
ベトナム戦争の報道を通じてベトナムに関心をもち、大学・大学院時代は歴史学(東洋史)と東南アジア地域研究を学びました。それ以来、博士論文などの個人研究ではベトナム(大越)という国家が確立した11~14世紀の政治・社会とその国際的位置を扱う一方で、18~19世紀の村落社会と家族・親族、タンロン遺跡などいろいろな共同研究にも参加してきました。たいてい出版物やインターネットの情報はひどく不十分なのですが、それを上回るものを私に与えてくれたのが、現場を歩き回って下手なベトナム語で村人や現地の学者に尋ねながらローカルな史料を集め、そこで日本・朝鮮半島との意外な共通点に気づくなどの経験でした。
–日越大学では専門家としてどのような活動をされていますか?
授業・研究指導では、日本の歴史と文化、地域研究における日越比較などを担当し、それらを東アジア・東南アジアの広域史やグローバルヒストリーのなかで考える、またジェンダーや環境など現代的な課題も普通に取り上げるなどの方法で、日本やベトナムの理解を深めさせることに努めています。漢字・漢文の素養の欠如、ゼミや読書会など学生が輪番で発表・討論する形式の授業や、複数の専攻の共通授業の習慣が根付いていないことなどの弱点を補うために、学問論を中心としてことばと学問のOSを整える教養教育、歴史教育改革とそこでのグローバルスタディーズと地域研究の統合など、日本の大学で長年かかかわった仕事の経験を活かしたいと考えています。
–日越大学で学びたいと思っている方へメッセージをお願いします。
長い戦争などのため、かつてはベトナム国内でも海外でも、ベトナム社会の深い研究は困難でした。最近の進歩は急速ですが、まだグローバルな課題の比較研究でベトナムが空白になっている領域は多いです。日本でもベトナム専門家がずいぶん増えましたが、在留外国人の数でベトナム人が第二位を占める状況には、大学も自治体・地域も全然追いついていません。他方で、東南アジアや漢字文化圏の理解を広げ、「アジアのなかで日本をとらえ直す」のにぴったりな比較研究のテーマは、漢字の受け入れ方、家族・ジェンダーと村社会、農業経済と労働力移動、ポピュラーカルチャーなどなど目白押しです。今がベトナム研究のチャンスでしょう。